日本財団 図書館


 

が少なくない。言い換えれば、現状では信頼を失っているSTCW資格証明書の信用を回復する必要があるということである。
第三に、現在の条約は昔ながらの船内組織、すなわち甲板部、機関部という各部の縦割り組織及び職員、部員という明確な区分によって成り立っている。現在では78年条約が審議されていた当時と比較すると、船舶や設備の技術革新は著しく進み、船内の就労体制にも大きな変化が生じている。それにも拘わらず、この旧い船内組織が障害となって、折角の技術革新に対して柔軟な対応ができないということがある。
我が国においても同じことが言えるが、先進海運国、特に自国の船員志望者の減少に悩み、その上、割高な自国船員の船員費軽減のため配乗定員の削減を迫られている欧州諸国にとっては、技術革新に柔軟に対応できる船内組織の導入は重要な問題であり、技術革新と就労体制の変化に見合う教育・訓練の導入と資格制度の改定が必要となった。

 

(2)IM0における条約見直しの決定
1991年に開催されたIM0(国際海事機関)の第59回MSC(海上安全委員会)が、最近の技術の進歩を考慮した船員の訓練・資格及び当直基準の見直しについて、各国政府の意見を求めたのに対して、船主団体の国際組織であるISF(国際海運連盟)は、「船員の能力と訓練の基準及び新しい船内就労体制」と題する文書を第23回STW(訓練・当直基準)小委員会に提出した。
この文書の内容は、時代の変化に対応した近代的な資格制度への見直しを行うこと、並びに伝統的な試験制度を見直して、実技を重視した新しい評価基準を確立することを提案するもので、STW小委員会において全般的に支持された。これを受けて、1992年12月に開催された第61回MSCにおいて1978年STCW条約の包括的見直しを行うことが正式に決定され、その検討完了目標年度は1996年とされた。

 

(3)条約改正の基本原則
1992年の年末から翌年の春にかけて、人的要因によるとみなされる大型タンカーの座礁や衝突事故並びにこれに付随する大規模な海洋汚染が相次いで発生したことから、1993年3月に開催された第24回STW小委員会において、STCW条約改正の目標年度を1年繰り上げて1995年とする作業計画が策定された。また、同時に条約改正の見直しに当たっての基本原則が作成された。
これらの原則の主なものは次のとおりである。
第一に、「条約の遵守と検証方法の強化」である。78年STCW条約が有効に機能していない最大の原因は、各締約国が条約を本当に履行しているかどうかを確かめる方法がほとんどないということである。このため、条約に定められた教育・訓練を受けていない者、その能力が条約の基準に達していない者に対してSTCW証明書が発給され

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION